2016年1月12日火曜日

『海難1890』レビュー

<トルコとの貿易・輸出入、トルコ投資、トルコ進出を考える日本の企業様へ>

当ブログでも何度かご紹介した『海難1890』を、遅かりしながらようやく鑑賞してきた。






















都内映画館で、三連休の日中ということもあり、座席は7割程度は埋まっていたように思う。公開から早1か月が過ぎてはいるが、まだこれだけ動員できているというのはなかなかの結果なのではないだろうか。

あらすじは2015年7月13日付けのブログを参照してほしい。
物語構成としては、前半に1890年のエルトゥールル号の出航から沈没、救出、収束までが、後半に1985年のテヘラン邦人救出の顛末が描かれている。

映画自体はかなり力の入った映像で、予想以上に迫力があった。
史実として聞いていたエルトゥールル号の事件が、はるばる日本に向けた航海に決死の覚悟で臨んだトルコ海軍の乗組員の面々を通して、その航海の姿が生き生きと蘇ったことにまず感動を覚える。
長い航海の果てにようやく祖国に帰れるという喜びもつかの間、和歌山沖で悪夢のような台風に巻き込まれ船は座礁、そして終に威容を誇った軍艦は爆音の後、荒れ狂う暗い海に沈んでいく。そこから村人たちの必死の救出劇まで、観ている側は手に汗握り息つく暇もなかった。日が昇り、白日の下に晒された残骸と悲惨な光景を前にした主人公の海軍大尉ムスタファの絶望と無念が手に取るように伝わり、このシーンには涙せずにはいられない。
69名もの負傷したトルコ海兵を救出したは良いものの、日々の食べ物にも事欠くような貧しい漁村で、これ以上彼らを面倒見ていては自分たちが飢え死にしてしまう、という危惧もある中、村の若者たちが年配者を説得するシーン。
「この村はこれまでも海で遭難した者はどこの者でも助けてきた」
「ここで彼らを見捨てたら、ご先祖様に顔向けができない」
貧しい暮らしの中でも村人が守り通したい<美徳>が、村人の総意として、異国の人々をもてなした。その行為は、生き残った海兵たちの胸に感謝と共にしっかりと刻まれる。

時・場所とも変わって、イラン・イラク戦争さなかのテヘランに舞台は移る。取り残された日本人を救うため、トルコからの救援機が飛ばされる。自分たちも一刻も早く母国に帰りたいトルコ人の群衆でごった返す空港は混乱を極めており、一縷の望みをかけて空港までたどり着いた日本人たちは絶望する。しかし、トルコ大使館に勤務するムラトの説得が功を奏し、トルコ人の群衆が日本人のために道を空けるシーンは、構成としてはエルトゥールル号乗組員救出への恩返しのような形になっている。しかし、この場の説得では、直接的に「エルトゥールル」の件は触れられない。むしろ、トルコ人が国民として持つ<美徳>に訴えかけた結果であるように思う。

トルコ語で、“Fedakarlık”という言葉がある。「自己犠牲」といった意味になるが、これはトルコ人にとって大いなる美徳である。自らのことは置いておいて、他者に手を差し伸べる。他者のために尽くすこと。
日本とトルコ、両国に共通したこの<美徳>が現実に行われたこの二つの出来事は、今のような時代にこそ人々の心にさらに訴えかけるものがある。

正直なところ、この二つの史実は、それぞれ別個に扱うことでより深みのある物語にすることができたと思う。
エルトゥールル号乗組員や漁村の人々の素顔や関係性にもっと接近してくれたら、おのおのの背景や思い、展開がさらにドラマティックに受け止められたのではないだろうか。
また、テヘラン邦人救出劇が駆け足気味になってしまっていたのも、少々もったいなく感じる。
【125年に及ぶ日本とトルコの友情】にクローズアップしたことで、個々のエピソードそれ自体の深みが失われてしまったのが残念である。

「日本とトルコの友好関係を紹介する」というPR的観点から見れば、一定の成功は収めている映画だと思う。

随所に散りばめられた両国の文化・民俗・風習(トルコのレスリング、伝統的な紙装飾技法エブル、民族楽器サズを奏でながらの即興歌の掛け合いから喜びのダンス、日本側は遊女遊びや漁村の生活風景など)は、文化庁や関係機関のPR的な意図を過剰に感じさせる。

純粋に映画として楽しみたい人には、そういった文化啓蒙的な思惑が邪魔になってしまうような気がする。

少々辛口ではあるが、【国家的プロジェクト映画】の限界なので仕方がない。
ただ、エルドアン大統領の冒頭のスピーチだけは、蛇足以外の何物でもなかった。

まだご覧になっていない方には、ぜひトルコと日本の人々の「誇り」「美徳」「心のふれあい」部分に着目して鑑賞されたい。もちろん、ハンカチ・ティッシュはお忘れなく。

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